FIREして数年。今でも目覚まし時計を使わない生活は最高だと思っています。
好きな時間に起きて、好きなことをして、好きな時間に寝る。この生活、本当にいいんですよ。でもね、これって放っておくと「当たり前」になって、感じなくなるんです。だから意識的に気をつけている。
今日は、FIRE達成後に待ち受ける「幸福の罠」と、それを防ぐ方法について話します。心理学の研究を交えながら、ぼく自身の実践も紹介しますね。
宝くじ当選者は幸せになれなかった
1978年、心理学者のBrickmanらが行った有名な実験があります。宝くじで大金を当てた22人と、一般の人を比較したんですよ。「宝くじ当たったら幸せになれる」って、みんな思うじゃないですか。
結果、どうだっか?
宝くじ当選者の幸福度は、一般人と変わらなかった。もっと言うと、当選者は「朝食を食べる」「友人と話す」「テレビを見る」といった日常の些細な喜びを感じる能力が、むしろ低下していたんです。
大金を手に入れたのに、日常が色褪せてしまった。皮肉ですよね。
これが「ヘドニック・アダプテーション(快楽順応)」と呼ばれる現象です。人間は良いことにも悪いことにも慣れてしまう。どんなに素晴らしい変化があっても、時間が経てば「普通」になってしまう。

心理学者のSonja Lyubomirskyは『HAP(快楽順応予防)モデル』を提唱しているよ。順応には2つの経路があるんだって。①ポジティブな感情が時間とともに減少する、②期待値が上がって以前は幸せだった状況を『当たり前』と感じるようになる。どっちも厄介だよね
要は、幸せに慣れちゃうってこと。せっかく手に入れた幸せなのに、感じなくなる。これ、FIREにも当てはまるんですよ。
FIREも同じ罠にハマりうる
FIRE達成直後のことを思い出します。
毎朝起きて「今日も会社に行かなくていい!」と感動しました。月曜日が来ても憂鬱じゃない。満員電車に乗らなくていい。上司の顔色を伺わなくていい。人に任せた仕事の瑕疵リスクを心配しなくていい。この解放感、最初は本当にすごかったはず。
でも、放っておくとどうなるか。
それが「当たり前」になっていく。宝くじ当選者と同じ構造です。最初は感動していた自由な朝も、1年、2年と経つうちに「普通」になってしまう。
ぼくは今でも、目覚まし時計なしの朝を快適だと感じています。好きな時間に起きられることのありがたみを、ちゃんと味わえている。
でも、それは意識しているからです。

意識するって何?毎朝『自由だ〜』って叫んでるの?
さすがに叫んではいないけど、近いことはしてる。
「苦しみは幸福を高める」—コントラスト効果の科学
ここで、もう一つの心理学理論を紹介させてください。
1991年、TverskyとGriffinという研究者が「エンダウメント効果」と「コントラスト効果」という概念を提唱しました。
ざっくり言うと、同じ出来事でも「過去の経験」によって感じ方が変わるという話です。
重要なのはコントラスト効果のほう。過去にネガティブな経験をした人は、現在のポジティブな状況をより強く幸せに感じられる。逆に、過去にポジティブな経験ばかりしてきた人は、現在の状況を「大したことない」と感じやすい。
つまり、苦しみは幸福を高めるんです。
前回の記事で「最初から自由な人にはFIREの価値がわからない」と書きました。生まれながらに資産がある人、最初から好きな仕事をしている人には、経済的自由のありがたみがピンとこない。
それは彼らが悪いわけじゃなくて、コントラストがないから。不自由を知らないから、自由の価値がわからない。
ぼくたちFIRE達成者は、不自由な会社員生活を経験している。だからこそ、自由のありがたみを深く味わえる。これがコントラスト効果。
でも、問題がある。
FIRE生活が長くなると、「不自由だった記憶」が薄れていく。満員電車の苦しさ、月曜朝の憂鬱、理不尽な上司。あの頃の記憶が遠くなっていく。すると、コントラストが弱まって、今の自由が「当たり前」に感じ始める。

苦労した経験があるからこそ、今の生活のありがたみがわかるんだよね。その記憶を大切にすることが、幸福感を保つ秘訣なのかもしれないね
そう、記憶を大切にすること。これがヒントなんです。
快楽順応を防ぐ3つの対策
じゃあ具体的にどうすればいいのか。ぼくが実践していることを3つ紹介します。
対策①:過去の不自由を定期的に思い出す
あえて会社員時代のことを思い出すようにしています。
満員電車に押し込まれていた朝。日曜夜のサザエさん症候群。意味のない会議、理不尽な指示、終わらない残業。
「あの頃に戻りたいか?」と自分に問いかける。答えは当然「No」。すると、今の生活のありがたみが蘇ってくる。コントラストを意識的に作り出すわけです。
このブログで会社員時代の話を書くのも、実はこの効果がある。書くことで思い出す。思い出すことでコントラストが生まれる。読者のためだけじゃなく、自分のためでもある。
対策②:多様性を意識する
2024年にBMC Psychologyという学術誌に載った研究があります。消費の「多様性」が快楽順応を防ぎ、幸福度を維持する効果があるという内容。
同じことの繰り返しだと、人間は慣れてしまう。でも、新しい経験を取り入れ続けると、慣れを防げる。
だからぼくは、同じルーティンに安住しないようにしています。行ったことのないカフェに行く。読んだことのないジャンルの本を読む。会ったことのない人と話す。
大げさなことじゃなくていい。日常の中に小さな「新しさ」を意識的に取り入れる。それだけで、生活全体が色褪せるのを防げる。
対策③:「当たり前」を言語化する習慣
これが一番シンプルで、一番効果がある方法かもしれない。
朝起きたとき、心の中で言う。「目覚ましなしで起きられる生活、いいな」と。
言語化することで、無意識に流れていく「当たり前」を意識の上に引き上げる。「いいな」と思うことで、感謝の気持ちが生まれる。
感謝日記をつけろとか、そういう大げさな話じゃない。ただ、心の中でつぶやくだけ。「今日も自由に過ごせる、いいな」って。
これを習慣にすると、快楽順応を防げる。毎日新鮮な気持ちで、自由を味わえる。

結局さ、幸せって『努力しないと維持できない』ってことだろw 自由を手に入れたら終わりじゃなくて、自由を味わう努力が必要ってわけだw
厳しいけど、その通りなんですよ。幸せは勝手に続くものじゃない。意識的にメンテナンスしないと、色褪せていく。
FIREは「ゴール」じゃなく「スタートライン」
前回の記事で、FIREは「Retire(引退)」じゃなく「REstart(再起動)」だと書きました。
人生をやり直す機会。敷かれたレールから降りて、自分でルートを選び直すスタートライン。
今日の話を加えると、こうなります。
再起動した後も、意識的に「幸せを感じる力」を維持する必要がある。放っておくと、せっかくの自由も「当たり前」になってしまう。だから、過去を思い出し、多様性を取り入れ、言語化する。
ちなみに、心理学の研究によると、幸福のセットポイント(基準値)は約25%の人で変動するそうです。つまり、努力次第で幸福度のベースラインを上げられる可能性がある。
FIREはゴールじゃない。幸せを自分で設計する生活の始まりです。
自由を手に入れることより、自由を味わい続けることのほうが難しい。
でも、それができるのがFIRE生活の醍醐味だと思っています。誰かに管理されるんじゃなく、自分で自分の幸せをメンテナンスする。その主体性こそが、本当の自由なんじゃないかな。
宝くじ当選者のように、日常の喜びを感じられなくなるのはもったいない。せっかく手に入れた自由を、ちゃんと味わい続けたい。
だからぼくは、今日も意識的に「いいな」とつぶやいています。
現場からは以上です。



コメント