最近、FIREシミュレーターをいじり倒しています。
年齢や資産や支出を入れると、何歳で資産がどうなるかをグラフにしてくれる、ぼくが自分で作ったシミュレーターなんですけど、けっこう便利に使える。
きっかけは2つあって、ひとつは、半年で資産が1.1億円に増えて、「1億を超えた分は自由に使っていいお金」と整理したものの、じゃあ具体的にどう使えば寿命までにちょうど使い切れるんだ、と気になり始め、新しいパラメータ―で再確認したいと考えたこと。
もうひとつは、その自作シミュレーターのバグを直したことで、計算がおかしいところを修正したら、ちゃんと信用できる数字が出るようになったので、ついついいろいろいじって確認してみたくなった。
そこで「ゼロで死ぬ(Die With Zero)」を目標にシミュレーターを回し始めました。資産を残して死ぬのは、要は「使えたはずのお金を使わずに死ぬ」ということで、ぼくにはそれがけっこう惜しいことに思える。だったら寿命と同時に資産もゼロになる設計を見つけたい。そう思って数字をいろいろ変えながらいじってました。
ところが、これが思った通りにいかない。自分では「だいたいこうなるだろう」と予想しながら入力するんですが、その予想がほぼ全部外れる。10パターン回して、直感が10連敗した話を書きます。
なお、入力した年収や資産は、ぼくの正確な数字じゃありません。実態に近い、適当な値を入れているので、そこはお察しください。
ぼくがDie With Zeroで死にたい理由
「Die With Zero(ゼロで死ね)」という考え方があります。
人生の幸福は経験にあるので、経験の価値が一番高い若い時期にしっかりお金を経験に使い、死ぬときには資産ゼロにしておけ、という発想です。
ぼくはこれにかなり共感していて。お金って結局「やりたいことをやるための交換チケット」だと思っていて、それを使わずに大量に握りしめたまま死ぬのは、チケットを使い残して遊園地を出るようなもので、非常にもったいない。
だから理想は、寿命の100歳あたりで資産がきれいにゼロに近づく設計です。早く尽きたら困るし、大量に余らせて死ぬのも避けたい。この「ちょうどいい着地」を探すのが今回の目的でした。

おまえ100歳まで生きるつもりなのかよw もっと世をはばかれよw
このシミュレーターで何をいじれるのか
本題に入る前に、道具の説明を少しだけ。
このシミュレーターには入力項目がたくさんあります。現在の年齢、目標とするFIRE年齢、寿命の想定、いまの総資産、年間の収入と支出、FIRE後の支出、FIRE後も働くなら労働収入、期待リターン、インフレ率、年金の受給開始年齢と金額。けっこう細かい。
全部いっぺんに動かすと、何が結果に効いたのか分からなくなる。だからぼくは、動かさない数字を先に決めました。現在45歳、資産は1.1億円、寿命は100歳、インフレ率2%。ここは固定。
そのうえで、動かすのは4つに絞りました。FIRE年齢、FIRE後の支出、期待リターン、FIRE後の労働収入。この4つだけを動かして、結果がどう変わるかを見ていきます。

変数を絞るのは実験の基本だね。動かす数字を4つに決めると、結果の違いが何で起きたのかを読めるようになる。全部いっぺんに変えたら、ただの当てずっぽうになっちゃうからね。
期待リターンについては、ぼくは3段階で考えていて、9%が現実路線、7%が保守、5%が保守的すぎ、という感じ。世のFIRE界隈だと5%や4%で計算する人が多いんですが、ぼくに言わせるとあれは保守的すぎると考えていて、S&P500の長期平均は7%くらいだし、ぼく自身の実績だともう少し出ている。だから9%を現実路線の基準に置きました。ここは異論も多くあるでしょうが、保守的に行き過ぎて死ぬときに多くの資産を残すのは資産を枯渇させるのと同じくらい致命的、と考えるぼくの立場です。
設計はシンプル。この3段階のリターン(9%・7%・5%)を軸に、FIRE年齢(50歳か55歳)、FIRE後の支出(月50万〜100万)、FIRE後の労働収入(ゼロか年240万)を組み合わせて、全部で10パターンくらいのシナリオを作り、それぞれに名前をつけて回しています。「ぜいたく完全リタイア」みたいなやつですね。以下、印象的だったものを順に紹介します。
まず現実路線で回したら、79歳で金が尽きた(ぜいたく完全リタイア)
最初の試行、名付けて「ぜいたく完全リタイア」。リターン9%、50歳でFIRE、その後は月100万円(年1200万円)使う、労働収入はゼロ。一番強気で一番ぜいたくな設定です。
9%も回るなら、月100万くらい余裕で使い続けられるだろうと思っていたところ、79歳で資産が尽きました。

9%という高い利回りでも、毎年1200万円を取り崩していくと、運用益が追いつかない。資産が増えるスピードより、引き出すスピードのほうが速いんですよね。高リターンは万能じゃない。

9%も回ってるのに月100万円も使えないの?
「利回りさえ高ければ贅沢に暮らせる」というのは幻想で、出ていくお金が多ければ(そもそも月100万円使うというシナリオに無理があるのかも)、いくら高利回りでも普通に枯れる。当たり前と言えば当たり前だけど、だからこそしょせん1億円程度はただの小金持ちだという現実を突きつけられてくやしいです。
月50万に切り詰めるより、月60万使って少し働くほうが安定する(倹約サイドFIRE)
次が一番の気づきというか、保守的すぎると思っているリターン5%で、2つ試しました。ひとつは月50万円使って完全リタイア、労働収入ゼロという名付けて「倹約完全リタイア」で、もうひとつは月60万円使うけど年240万円だけ働いて稼ぐ「倹約サイドFIRE」。
直感的には、支出を月50万に絞った「倹約完全リタイア」のほうが安全に思えたけど、結果は逆で、「倹約完全リタイア」は92歳で枯渇。一方、月60万使って240万稼ぐ「倹約サイドFIRE」は、92歳どころか資産が減らずに、9800万円を保ったまま安定。


使う額は月60万のサイドFIREほうが多いのに、結果は安定するというのは、年240万の労働収入が効いているからです。

年240万の労働収入は、6000万円を4%で運用するのと同じ効果なんだよね。”ちょっと働く”だけで、6000万円ぶんの資産を持っているのと同じ。これが効かないわけがないよ。
これはぼく自身の実感とも合っています。ぼくは完全リタイアじゃなくて、好きな仕事を少しだけやるサイドFIREを選んだけど、働くのをゼロにするより、ちょっとだけ続けるほうが、精神的にも経済的にもずっと楽です。シミュレーターがそれを数字で裏付けてくれた感じです。そもそも完全FIREして何も生産的なことをしないという人生設計は、あまりにも毎日がヒマすぎるので、そっちのほうが無理がある気が、いまはしてます。
ゼロ着地を狙うと、たいてい「余りすぎ」か「枯渇」に振れる
こうやって10パターンくらい回したわけですが、肝心の「100歳でちょうどゼロ」に着地したケースはほぼ1つだけで、あとは両極端でした。9%で月100万使うけど年240万だけ稼ぐ「ぜいたくサイドFIRE」は、なんと4.8億円も残して死ぬことになるし、逆にさっきの「ぜいたく完全リタイア」は79歳で尽きる。9%で月85万の「現実ゼロ着地」は2.4億余り、7%で月65万の「保守ゼロ着地」にすると今度はほぼゼロ。7%で月60万まで下げた「保守倹約リタイア」は1.38億余る。ちょっと数字を動かすだけで、結果が大きく振れる。
要は、ゼロ着地はものすごく狭い的なんです。少し多く使えば早く尽きるし、少し節約すれば大量に余る。「ちょうど」を当てるのは、思っていたよりずっと難しい。

でも、ぴったり当てなくてもいいんじゃないかな。これって”ちょうどの一点”を探す作業じゃなくて、”だいたい大丈夫な幅”を見つける作業だよね。幅で捉えれば、そんなに気負わなくていいと思う。
そうですね。実際、人生は予定通りに進まないし、リターンも毎年ブレる。一点を狙うより、「このあたりなら大きく外さない」という幅を知るほうが、たぶん健全です。
数字をいじるほど、自分が何を求めてるのか分からなくなった
ここまで回してきて、変なことに気づくのですが、ぼくは「ゼロで死ぬ設計」を探していたはずなのに、いざグラフを並べてみると、一番見ていて落ち着くのは、ゼロに向かって減っていくグラフじゃなく、資産が減らずに、むしろ少しずつ増えながら安定しているグラフ。
頭では「ゼロで死ぬのが合理的」と思っているのに、本能は「減らないこと」を求めている。

結局”ゼロで死にたい”とか言いながら、減らない通帳を眺めてニヤニヤしたいだけだろw 人間って正直だよなw
道具をいじっていると、最初は「正しい答え」を探しているつもりなんですが、途中から「自分が本当は何を欲しがっているのか」のほうが見えてきて、今回でいうと、ぼくはどうやら「ゼロで死ぬ」よりも「減らない安心」のほうに引っ張られているということに気づく。これは合理的思考と本能のズレで、もう少し考えてみる価値がありそうです。
その「減らずに純増しながら安定する」設定を、ちゃんと探してみたくなりました。理想は、リターン7%くらいの保守的な前提でも、1億円弱を保ちながらゆるやかに増えていく形。これはまた別の機会に、じっくりチューニングしてみようと思います。
FIREシミュレーターは、未来を予言する道具じゃなく、むしろ、自分の頭の中にある「思い込み」を片っ端から壊してくれる道具でした。9%でも月100万使えば尽きるし、少し働くだけで景色が変わる。ゼロ着地は狭い。どれも、いじってみるまで腹落ちしていなかったことです。
そして一番の収穫は、数字じゃなくて、自分の本音のほうでした。ぼくは「ゼロで死にたい」と言いながら、減らない資産に安心している。この発見だけで、いじった甲斐がありました。
現場からは以上です。


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