マジューリ『富の階段』を日本で読み解くための前提整理 ── 6レベルと「1ドル=100円」換算、そして野村総研データとの一致

読書

自分が今、富の階段の何段目にいるか、即答できる人はほとんどいない。

最近、ニック・マジューリの新刊『THE WEALTH LADDER 富の階段』(2026年邦訳)を読みました。

THE WEALTH LADDER 富の階段: ── 資産レベルが上がり続けるシンプルな戦略
全米屈指のデータサイエンティストが明かすお金持ちになれる人の「 」と「 」!革新的なお金の 『JUST KEEP BUYING』でデビューした著者による、全世界待望の続編!6つの資産レベルにあわせた画期的で一生モノのお金の ! (「お金の哲…

前作「Just Keep Buying」が日本でも20万部を超えた、Ritholtz Wealth Management社のCOO兼データサイエンティストです。今回も米国の長期パネル調査(PSID)50年分・数万世帯のデータをぶん回して、「富とは直線的に増えるものじゃなく、6段階の階段である」というシンプルな主張を展開している。読んでみて、いくつか気づきがありました。

そのひとつが、「同じ”投資”でも段位によって意味が変わる」「同じ”労働”でも段位によって価値が変わる」という当たり前といえば当たり前の話を、6段階に分けて言語化してくれているところ。地味なんですけど、これが効く。

ただ、この本は米国データ・ドル建てなので、そのまま日本人読者として読むとちょっとズレる。だから今日から6回シリーズで、この本を日本人読者向けに「翻訳」していこうと思っています。今回はその第1回、シリーズ全体の前提整理回です。

ニック・マジューリってどんな人?『富の階段』ってどんな本?

簡単に著者と本書の紹介をしておきます。

マジューリは、米国の投資顧問会社Ritholtz Wealth ManagementのCOO兼データサイエンティスト。前作『JUST KEEP BUYING』(邦訳:ジャスト・キープ・バイイング)が日本でも20万部超のヒットになりました。データで殴る系のパーソナル・ファイナンス本を書く人、というポジションです。

本書のコア・メタファーはシンプルで、「富は直線ではなく階段である」。資産が右肩上がりに増えていくグラフを想像しがちですが、現実には資産レベルが上がるごとに「お金との関わり方」と「最適な戦略」が不連続にガラッと変わる、という主張です。

裏付けはPSID(Panel Study of Income Dynamics)という米国の長期パネル調査。50年以上、同じ世帯を追跡してきた巨大データセットで、これを使って「各レベルでお金がどう増えていくか」「各レベルで何にお金を使うか」「各レベルで何が幸福度を上げるか」を実証している。

要は、「金持ちになる方法」を語る本ではなく、「自分が今いる段に最適な意思決定の枠組み」を提供する本なんです。

賢い少年
賢い少年

面白いのは、節約より収入を上げる方が圧倒的に効くって明言してることだね。日本のFIRE本って『節約・倹約』寄りが多いけど、マジューリは『稼げ』派なんだよ。50年データで裏付けてるからこそ、説得力が違うんだよね。

6つの資産レベル ── まずはドル建て原典のまま見る

マジューリの6段モデルを、いったんドル建てのまま提示します。

  • レベル1:純資産1万ドル未満(余裕なし)
  • レベル2:1万〜10万ドル(食料品の自由)
  • レベル3:10万〜100万ドル(レストランの自由)
  • レベル4:100万〜1000万ドル(旅行の自由)
  • レベル5:1000万〜1億ドル(住居の自由)
  • レベル6:1億ドル以上(影響力の自由)

各レベルの「○○の自由」というネーミングが秀逸で、そのレベルに到達すると、何の支出を意識しなくなるか、を表しています。レベル2で食料品、レベル3でレストラン、レベル4で旅行、レベル5で住居、レベル6で社会への影響力。

そして本書の最重要メッセージは、レベルが上がると「最適な戦略」が不連続に変わるということ。同じ「投資」でも、レベル3とレベル5では意味が違う。同じ「働く」でも、レベル2とレベル4では意味が違う。これがシリーズ全体を貫くテーマになります。

ツッコミ少年
ツッコミ少年

いや、ドル建てって日本人には分かりにくいじゃん!今1ドル155円くらいなんだから、それで換算すりゃいいんでしょ?レベル2の10万ドルなら1550万円ってことっしょ?

なぜ「1ドル=100円」で換算すべきなのか ── 為替レートを使うな

為替レートで素直に換算すると、日本の体感とズレるんですよね。

具体的に見てみます。2026年5月現在、1ドル≒155円。実勢レートでレベル2「食料品の自由」=10万ドル=1550万円になる。でも、日本で純資産1550万円持っている人を想像してみてください。「食料品の自由」どころか、もう少し上の「レストランの自由」に片足を突っ込んでいる人が多いんじゃないかと思います。

理由はシンプルで、日米の物価が違うから。米国の食費は日本のだいたい1.5〜2倍。マクドナルドのビッグマック、米国だと約7ドル(千円超え)、日本だと480円。家賃も外食もチップも、米国の方がガッツリ高い。

マジューリの「○○の自由」は米国の物価で成立する感覚なので、日本に持ち込むときは為替レートじゃなく、購買力で換算する必要があります。

その答えが、1ドル=100円のラフ換算。これがOECDの購買力平価(PPP)データや、エコノミスト誌のビッグマック指数、その他の物価指標と素直に整合する数字なんですよ。

要は、為替は短期的に投機マネーで上下するけど、購買力で見れば日本円と米ドルは長期的に100:1付近に落ち着いている、という話です。

賢い少年
賢い少年

経済学の購買力平価(PPP)の考え方だね。為替レートは投機マネーでブレるけど、本当に同じものを買うのにかかるお金で比較すれば、日本円は米ドルに対して100:1付近で安定してるんだよ。ビッグマック指数でも、円は長期的に割安評価が続いている。だから1ドル=100円換算がちょうどいい。

円換算した「富の階段」の早見表

ここで一度、円換算した完全版を出しておきます。

レベルドル建て円換算(1ドル=100円)体感(○○の自由)
レベル1〜1万ドル〜100万円余裕なし
レベル21万〜10万ドル100万〜1000万円食料品の自由
レベル310万〜100万ドル1000万〜1億円レストランの自由
レベル4100万〜1000万ドル1億〜10億円旅行の自由
レベル51000万〜1億ドル10億〜100億円住居の自由
レベル61億ドル〜100億円〜影響力の自由

各レベルの体感を、日本の生活感で言い換えるとこんな感じです。

  • レベル2:スーパーで値段を見ずにカゴに入れられる
  • レベル3:行きたい店に予約を取って気軽に行ける(高級店はまだ躊躇)
  • レベル4:ビジネスクラスで好きなときに海外旅行、高級ホテルに気兼ねなく泊まれる
  • レベル5:住みたい場所に好きな家を買える
  • レベル6:政治家や財団を通じて社会に影響力を行使できる

ここまでだと「ふーん、で、それが日本に当てはまるって本当?」という疑問が残ります。次のセクションでガチで答え合わせします。

野村総研の富裕層ピラミッドと答え合わせ ── 1ドル=100円換算は日本のリアルと一致する

円換算が妥当かどうかは、日本の実データと照らしてみるとはっきりします。

野村総合研究所(NRI)が定期的に発表している、日本の富裕層ピラミッド(純金融資産保有額別の世帯分布)があります。2025年2月発表・2023年データの最新版を使います。

野村総研の5階層はこうなっています。

  • 超富裕層(純金融資産5億円以上):11.8万世帯(0.22%)
  • 富裕層(1〜5億円):153.5万世帯(2.83%)
  • 準富裕層(5000万〜1億円):403.9万世帯(7.45%)
  • アッパーマス層(3000万〜5000万円):576.5万世帯(10.63%)
  • マス層(3000万円未満):4424.7万世帯(78.87%)
  • 合計約5570万世帯

これをマジューリの円換算階段と並べた図がこちらです。

マジューリ『富の階段』(円換算) × 野村総研ピラミッド (2023年データ)
マジューリの富の階段
野村総研の富裕層ピラミッド
L6 影響力100億円〜
L5 住居10億〜100億円
L4 旅行1億〜10億円
L3 レストラン1000万〜1億円
L2 食料品100万〜1000万円
L1 余裕なし〜100万円

該当層なし
超富裕層5億円〜 / 0.22%
富裕層1〜5億円 / 2.83%
準富裕層+アッパーマス層3000万〜1億円 / 18.08%
マス層 (上半分)1000万〜3000万円
マス層 (下半分)〜1000万円 / 合計78.87%

出所:野村総合研究所「日本の富裕層は約165万世帯、その純金融資産総額は469兆円と推計」(2025年2月13日発表)
※左右は金額帯で揃えており、同じ縦位置が同じ純資産レンジに対応します。

マッピングを観察すると、いくつか面白いことが見えてきます。

  • 野村総研の 富裕層(1〜5億円) は、マジューリの レベル4の前半(1億〜10億円) とぴったり一致する
  • 野村総研の 超富裕層(5億円〜) は、マジューリの レベル4の後半〜レベル5の入り口 に対応する
  • 野村総研の 準富裕層+アッパーマス層 は、マジューリの レベル3(1000万〜1億円) にすっぽり収まる
  • 野村総研の マス層 は、マジューリの レベル1〜レベル2 に対応する

つまり、野村総研が日本独自に設定した階層境界(3000万・5000万・1億・5億円)と、マジューリが米国データから導いた階段の境界(円換算で1000万・1億・10億・100億円)は、ほぼきれいに噛み合っているんです。

これは偶然ではなくて、両者とも「その金額で何ができるか」というリアルな購買力ベースで階層を切っているからだと思います。野村総研は日本の物価感覚で、マジューリは米国の物価感覚で。それを購買力平価で揃えると、ほぼ同じ景色が見える。

要は、1ドル=100円換算は、日本のリアルな富裕層分布と整合する という答え合わせができたわけです。

ちなみに、日本にはマジューリの「レベル6(100億円〜)」に該当する層が、野村総研の5階層には独立して出てこない。超富裕層(11.8万世帯)の中のごく一部にしか存在しないからですね。上場企業オーナーや一部の実業家レベル。

いじわるな少年
いじわるな少年

日本の野村総研の階層と、米国のマジューリの階段がほぼピッタリ重なるって、よく考えると整合的でわかりやすいなw

本書を貫く4つの共通原則 ── 段位が違っても変わらないこと

レベルごとに「最適な戦略」は変わるんですが、段位に関わらず共通する原則がいくつかあります。シリーズ全体の話に入る前に、ここを押さえておくとあとが読みやすい。

ぼくが本書から読み取った共通原則は4つです。

  • 原則1:節約より収入を上げる ── パーソナル・ファイナンスで最も強い相関のひとつ。収入が高くて資産が少ないケース、収入が低くて資産が多いケース、どちらも統計的には稀
  • 原則2:人的資本への投資 ── 特にキャリア早期の努力が複利で効く。マジューリは「若い頃に一度も受けたことのない、最も貴重なアドバイス」と認めている
  • 原則3:複利を信じて時間を味方にする ── PSIDデータでは、投資人生の最初の10年間の積立額が、最終資産の半分以上を占める
  • 原則4:お金は道具であり目的ではない ── お金で幸福度を増幅できる、でもお金ですべての幸福が買えるわけではない

これらは段位によらず共通する。各段の具体的な「戦略」の話は、次回以降のシリーズで展開していきます。

優しい少年
優しい少年

節約だけで頑張ってる人にとっては、ちょっと耳が痛いデータかもしれないよね。でも、稼ぐ力を伸ばすことに目を向けると、新しい選択肢が見えてくるんじゃないかな。節約は『今ある』お金の中での最適化だけど、稼ぐ力を伸ばすのは『これから入ってくる』お金の上限を上げる話だから、長期で見たら全然インパクトが違うんだよね。


マジューリの『富の階段』は、米国データ発のフレームワークですが、購買力平価の観点から日本にも適用できる。1ドル=100円換算で、野村総研の富裕層ピラミッドとほぼ一致する ── ここの答え合わせが今日のいちばんの収穫でした。

次回は、この円換算した富の階段の上に「ぼく自身の現在地」と「読者の自己診断方法」を乗せていきます。ぼくは2026年1月に純資産1億円に到達したので、ちょうど階段の境界線をひとつ越えたところ。そこから見える景色と、これから取るべき戦略の話を書きます。

自分が今、富の階段の何段目にいるか。次の段に上がるために何をすべきか。漠然と「金持ちになりたい」じゃなくて、「次はレストランの自由が欲しい」「次は旅行の自由が欲しい」と具体的に願える方が、計画も立てやすいですから。

現場からは以上です。

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