あのね、先日20年来のゲイの友達からLINEが来たんですよ。
50歳を超えたゲイで独身の友人なんですけど、「最近、FIREを意識してる」って。
ぼくはFIREを実際にやった側の人間で、そのことは友人も把握してるんですけど、「いいじゃん、やりなよ」って雑には返せなかった。20年の付き合いって、そういうもんでしょ。ちゃんと彼の気分の正体をしっかり考えてから返事したい。
というわけでこの記事、ぼくなりに考えを整理して、彼への返事を組み立ててみたいと思います。その前編です。

20年来の友達の軽い雑談に、わざわざブログ記事で分析して返す気かよw お前本当に面倒くさい男だなw

いや、友達だからこそちゃんと考えるんだよ。
「FIREしたい」を、そのまま受け取らない
20年も付き合ってると、言葉の訳し方が勝手にわかる。彼の「FIREしたい」は、要は「今の職や生き方にあんまり満足してない」ってことなんですよね。
ただここが大事なんですけど、これは否定的な響きじゃない。「もう嫌だ逃げたい」じゃなくて、「そろそろ次のステージに行きたいな」という前向きな気分のほう。
でもそこで止まると、ただの気分の話になっちゃう。気分って、そのままだと次のアクションにつながらないんですよ。

気分のままにしとけばいいじゃん、なんで分析すんのよ?

でも気分を大事にするためにも、ちゃんと見てあげる必要があるんじゃないかな。
ぼくの読み:これは “year of hedonism” の宣言だ
でね、そのLINEを読んだときにぼくの頭をよぎったのは、なぜか『ブリジット・ジョーンズの日記』のあのセリフだったんです。
映画版でブリジットが、人生を仕切り直そうとして宣言する一言がある。
“So. New plan. To embrace my new life as a top TV news producer… and more importantly… I’ve decided my forty-third year is going to be my year of hedonism.”
(よし、新しい計画よ。敏腕テレビプロデューサーとしての新生活を謳歌して……それ以上に大事なこと。43歳の今年は『ヘドニズム(快楽主義)』の年にするって決めたの)
43歳のブリジットは、自分にご褒美をあげる年を宣言した。50歳の友達の「FIREしたい」も、構造はこれと同じじゃないかとぼくは思ったんですよ。
ゲイというマイノリティに生まれ、30年間真面目に働いて、そこそこの資産もできた。両親のこともあり、自分の人生の残り時間もうっすら見えてきた。そのタイミングで、「そろそろ自分のがんばりに、自分で報いたい」という気分が出てくる。これは別に病気でも逃避でもなくて、ごく健康な感情なんです。
要は彼のそれは、50歳版 year of hedonism の宣言。FIREという言葉を使っているけれど、本質は「人生のご褒美タイムを始めたい」なんです。
ただし。ブリジットの計画が映画の中で二転三転したように、ヘドニズムの年には設計がいる。これ大事。
じゃあ何を手がかりにするか——『科学的な適職』の物差し
ここでぼくの悪い癖が出るんですけど、気分を気分のまま扱うのが苦手なんですよ。構造に落として考えたい。というわけで取り出したのが、鈴木祐の『科学的な適職』。
この本、適職を 「幸福が最大化される仕事」 と定義して、7つの徳目と8大悪という二つの物差しを提示してるんです。
仕事の幸福度を上げる「7つの徳目」
- 自由(裁量があるか)
- 達成(前進感があるか)
- 焦点(強みが使えるか)
- 明確(求められてることが明確か)
- 多様(適度な変化があるか)
- 仲間(良い人間関係があるか)
- 貢献(他者の役に立っている実感があるか)
仕事の幸福度を下げる「8大悪」
- ワークライフバランスの崩壊
- 雇用不安
- 長時間労働
- シフトワーク
- コントロール権の欠如
- ソーシャルサポートの欠如
- 組織内の不公平
- 長時間通勤
この本にはもうひとつキラーフレーズがあって、「好きを仕事にする」は7つの大罪の筆頭、なんていう身も蓋もないことも書いてある。ここは次回の伏線にしておきます。
物差しがあるとね、「FIREしたい」という感情語が、どこがどう足りてないのかという構造語に翻訳できる。気分のまま放置せずに、ちゃんと見てあげられるんですよ。

感情を構造に落とすと、処方箋が書きやすくなるんだよね。
友達に当てはめてみた——軽くモデリング
というわけでね、彼に見当つけてみましょうか。重くしたくないので、「ああこれとこれが効いてそうだな」くらいの軽さで列挙します。
1. 達成、だいぶ消化した感
50歳です。出世レースはだいたい結果が出た年齢。「もうひと伸び」のための伸びしろが、若い頃ほどは見えない。これは個人のせいじゃなくて、50歳というポジションの構造的な特性です。
2. 自由、もっと欲しい
20年以上も組織にいれば、非効率な会議と承認の繰り返しに飽きるのはむしろ健全。裁量の幅が、若い頃の相対値で見るとじわじわ狭くなっていく感じ、あるはず。
3. 能天気な上司とバカな部下
たまに上司と部下に対するグチを冗談交じりに言っていた。笑い話の文脈ではあったけれど、職場のソーシャルサポートがちょっと痩せてるサインではあるんですよね。加えて彼はパートナーのいない独身ゲイです。これは悩みじゃなくて事実として、私生活側のサポートも構造的に薄い。
4. 人生後半の時間意識
最近、お父様を亡くされた。明るい彼でも、自分の人生の残り時間をうっすら意識するきっかけにはなるはず。
でね、要するにこれ、足りない徳目が複数あるんですよ。一個じゃない。ここが大事なところで、「この一点を直せば解決」じゃないからこそ、「FIREしたい」という大きな包括的な言葉が出てくる。いったん大きくリセットして一から構築したほうが解決が早そうだなっていう感覚。
ぼくの読みどころ——これはお金の問題じゃない
ここでひとつはっきりさせておきたいんですが、彼は独身一人分の資産はすでに十分ある。お金はもう制約条件から外れてるんですよ。
なのに「FIREしたい」と言うってことは、お金で解ける悩みはもう解けていて、お金で解けない層の悩みが顔を出してきたということなんです。これはね、けっこう贅沢な段階なんですよ。多くの人はそこまでたどり着けない。
ぼくの翻訳を書いておきます。彼が本当に言いたかったのは、たぶんこれ。
「これまでのがんばりに、そろそろ自分で報いたい。人生後半は、自分のための設計をしたい。」
これ、悩みじゃなくて宣言です。ブリジットの “year of hedonism” と同じ構造。ご褒美タイムの始まりのサインなんですよ。
ただし、FIREという言葉に飛びつく前に考えるべきことがある。辞めた瞬間、職場で細々繋がっていた仲間の徳目が、さらに痩せる可能性があるんですよ。
要は、ご褒美タイムには設計がいる。ブリジットも設計しないで突っ込んだから映画一本分の迷走が必要だったわけで。ぼくたちは映画の観客じゃなく当事者なので、もう少し上手くやりたい。

で、結局FIREしたほうがいいの?しないほうがいいの?

それを次回書くんだよ。
というわけで今回は、友達の「FIREしたい」を物差しに乗せて眺めるところまで。これはお金の問題じゃなく、50歳版 year of hedonism の設計の問題、というのがぼくの暫定的な読みです。
同じことが読んでくれているあなたにも言えます。もしあなたが「FIREしたい」と思ったら、その言葉にすぐ飛びつく前に、自分の7つの徳目のどれが痩せてるかを軽く点検してみてほしい。お金で解ける問題なのか、そうじゃないのか、切り分けが見えてくる。
次回の後編では、ぼくが友達に贈るアドバイスを、本気で書きます。お金で解けない層にどうアプローチするか、ジョブ・クラフティング、ストア派、そしてぼく自身の幸福論を重ねる予定です。
現場からは以上です。


コメント